20190122 木下弦二@Manabu Coffee
ここ数年、お一人で名古屋を訪れて下さることの増えた弦二さん。これまでは生ギターでの弾き語りが主でしたが、今回はバンドでもお馴染みのエレキを手に、「この会場を意識して買った」というアンプを持参されての生歌ライブ。
東京ローカル・ホンクのステージでも"サンダル鳴らしの名人""夜明け前"などの曲では生ギターを使用されていますが、ネックの上をスルスルと滑るようなプレイ、また御本人が「アル・マッケイに本当に影響を受けた」と語るカッティングをより堪能出来るという点で、僕はエレキを持った弦二さんのプレイに特に惹かれるのであります。
(弦二さん自身によるブログ記事。あのお馴染みのフルアコについて、またその制作者の方との出会いについて書かれています)
今回の会場となったmanabu coffeeさんは、生歌にフンワリとナチュラルなリバーブのかかる素敵なお店。この日は20人程度? の客数でほぼ満席。東海地方のライブでの常連さんや、互いに面識ある人達が多め。
2部構成の頭にはそれぞれ、客席からのリクエストなどを披露。曰く「先にやっておかないと忘れちゃうので」。以降は「俺は何時間でも歌っていられるけど、そうするとお客さん達が流れ解散になっちゃって、最後は俺一人でここに残って歌ってることになっちゃうから」とお馴染みのMCも飛び出す、出し惜しみの一切ないステージでした。
個人的に印象深かったのが、第二部でやってくれた"ハイウェイソング"。
ちょっと前に、仕事で東北方面まで高速道路を延々と北上したことがありました。初めて訪れる地域でしたが、道中の高速は防音壁? が所々に立ち並んでいて、車窓からの景色にはそう大きな変化もなく。ただただ眠気や疲れと戦いつつの道中でした。
それでも時々、防音壁などの無くなる区間、何県の何市かもわからない街並み、どんな人達が寝起きして暮らしているかも分からない家々が遠くの方に現れ、特に陽が落ちてからはそれらの灯が視界の隅をぼんやりと流れていきました。
"ぽつりぽつり家の灯かりが
黒い山の陰に揺れている
あそこに帰って行けたらいいね
だけどハイウェイからまだ降りられないのさ"
ああ、あの歌はこのことを歌っていたのか、と心も温まった思い出がありまして。
近年、ライブの〆の定番となっている"ダークマター"を歌い終えてのアンコールでは、初めて聴けたインスト曲"お留守です/不在通知"を挟み、「暗い終わりになっちゃうけれど……」と前置きしつつの"みもふたもない"。
"効き目のある言葉を教えて欲しいけど
マイ・ゴッド・ハズ・ノー・ネーム"
このサビから、僕はいつもジョージ・ハリスンの遺作"Brainwashed"のラストナンバーでありタイトル曲でもある"Brainwashed"を思い出します。なーんとなく。
"God God God
Wish that you'd brainwash us too"
もう1曲アンコールを、というところのMC。2011年の震災後、ご家族と九州へ移り住んだこと。そのことについて、ネット上で「(東京を捨てるように出ていくことが)卑怯じゃないか」と攻撃され、「それは怒りを向ける方向性が違うんじゃないか」と思ったこと。さらりと語っていましたけれど、永く暮らしていた故郷を離れること、そのことに対する周囲の反応など、言葉にできない葛藤や心労も多々あったことなど想いました。
「あれから、この歌詞が妙にしっくり来た」と語って、ラストナンバーは"さらば恋人"。
"いつも幸せすぎたのに気づかない二人だった
ふるさとへ帰る地図は涙の海に捨てていこう
悪いのは僕のほうさ 君じゃない"
来るものを拒まない穏やかさを見せ、それでも決して触れられない陰があり。分かったと思うたびにまた少し遠ざかり前を行く弦二さんのステージをまた、堪能致しました。
[第一部セットリスト]
おバカさん(東京ローカル・ホンク/生きものについて)
冬眠(東京ローカル・ホンク/さよならカーゴガルト)
お手紙(東京ローカル・ホンク/ST)
泥男(東京ローカル・ホンク/さよならカーゴガルト)
鏡の中(東京ローカル・ホンク/さよならカーゴガルト)
夜道(木下弦二/natural fool)
生きものについて(東京ローカル・ホンク/生きものについて)
星影のワルツ(千昌夫さんのカバー)
またあおう(木下弦二/natural fool)
[第二部]
目と手(東京ローカル・ホンク/さよならカーゴガルト)
9月には帰らない(松任谷由実さんのカバー)
よそ者(RCサクセションのカバー)
すんだこと(東京ローカル・ホンク/ST)
ブラック里帰り(東京ローカル・ホンク/ST)
ハイウェイソング(東京ローカル・ホンク/生きものについて)
遅刻します(木下弦二/natural gool)
おいでおいで(東京ローカル・ホンク/さよならカーゴガルト)
夜明け前(木下弦二/natural gool)
日が暮れて(アルバム未収録)
関口くん(アルバム未収録)
ダークマター(アルバム未収録)
お留守です/不在通知(アルバム未収録)
みもふたもない(木下弦二/natural fool)
さらば恋人(堺正章さんのカバー)